音楽家のジストニアとアレクサンダーテクニーク

皆さんは、音楽家のジストニアについて、聞いたことがあるでしょうか?

楽器を演奏する人を困らせるジストニア音楽家の中にはそれを公言しない人達も多いので、実際の数はもっと多いと予想されます。

目次

音楽家のジストニアとは?

音楽家のジストニアとは、「楽器を演奏する時にのみ」起こる局部的なジストニアで、ピアノや弦楽器奏者などでは指に、管楽器奏者は指や唇周辺、舌などに症状が出ます。

具体的な症状としては、指の場合は自分の意図とは別に、ある指だけが反ってしまったり、曲がってしまったりします。管楽器奏者などが舌にジストニアが出た場合、タンギングのコントロールができなくなります。また唇周辺に出た場合、アンブッシャー(楽器を吹く時の口の形)のコントロールに障害が出ます。

初期症状~ジストニアとわかるまで

音楽家のジストニアは、多くの場合、初期には「何だか最近、指がまわりにくいなあ!」とか、「最近上手く音が出せないなあ!」と思って、「きっと練習が足りないんだ!」と練習を増やします。ところが、練習すればするほど、上手く行かなくなり、「やっぱり何かおかしいぞ!」と悩み始めます。そうこうしているうちに、どんどん症状が進むパターンが多く、実際にすぐにジストニアの症状だと気づく人は少ないです。さすがに最近はネットで情報がたくさん発信されているので、ジストニア自体がよく知られるようになりましたが、一昔前は情報がなくジストニアとわかるまで、相当な時間を要したようです。

ジストニアがわかってからの行動

ところが、この演奏家特有のジストニア、その人の演奏家生命を揺るがすほど深刻なのですが、自分の症状がジストニアだろうとわかっても、日本でも良い治療法がなかなかないのが現実なところのようです。

そんなこんなで、皆さんあちこちの整形外科や噂の良い整体を散々巡っても治らず、困り果てて、アレクサンダーテクニークのレッスンに来られる事が多いです。

そこで多くのジストニアの人達は聞きたいのは「実際のところ、アレクサンダーテクニークでジストニアは治るの?」と言うことでしょう。

ジストニアとアレクサンダーテクニークの相性

これは、私の経験から話すことになりますが、先に答えを書くと、「ジストニアとATの相性は決して悪くはないです。ただ、個人差がありますね。

症状の重さは、軽い方がもちろん早く治りやすいです。ジストニアになりかけ、くらいだと割とうまく行きます。それと、社会的なプレッシャーがかかっていない人の方が治りやすいですね。(詳しくは後述します。)

あとは、実際どのくらいレッスンを取り組んだか?の差もありますね。やはり集中してレッスンを一定期間するのが大切になってきます。

そして、一番大切になってくるのが、「ATの考え方が信用できるかどうか?」「好きかどうか?」かもしれません。(考え方を理解できても、なかなか成果が出ない事もあるとは思いますが、たぶんジストニア以外の部分に恩恵があるのではと思います。例えば、姿勢が良くなったとか、ブレスが楽になったり!)

ATの考え方とは?

さて、ではATの考え方ですが、アレクサンダーテクニークでは、どんな症状の人が来ても、その人が問題視している部分だけを直接取り扱うことはしません。もちろん全くその部分を無視すると言う事ではないのですが、考え方としては、その部分以外の身体の使い方も原因で、その部分に症状が出ていると考えるのですね。

もう少し詳しく言えば、例えば、ジストニアの症状が指に出たとしても、アレクサンダーテクニークでは最初から、指の動かし方を教えたりはしません(時にマッピングの見地から見た、より良い指の使い方を教える事はありますが)。身体全体、頭ー首ー背中の関係性を第一に学びます。

そうやって身体全体の中から指というものを見ていくと、ATで言うところの、一番大事な関係性、頭-首-背中と言うがあり、そこから上腕につながっていて、前腕があり、手首があって、その先に指がある訳です。そういう風に考えてその関係性を最善のものに変えていくと、指の位置づけや使い方が少しづつ変わってきます。これが、アレクサンダーテクニークの基本の考え方です。

ただ、多くの人にとって、指の問題を治したいのに、指を直接何とかしない、というATの考え方は、ちょっとすっきりしない信じられないやりたくない、という気持ちになるのではないでしょうか?これは、確かに時間がかかるのですね。なぜなら、根本から治すことになりますから。

しかし、私たちは「急がばまわれ!」と言う言葉があるように、多くの問題解決は時間をかけて問題が出て来ただけに、対処療法的なやり方では、結局一瞬は良くなっても、問題の根本解決にならない場合が多いです。

ジストニアはなぜ起きるのか?

ジストニアがなぜ起きるのか?は、医学会でもまだいろいろわかっていないことが多いでしょうから、私のような素人が何も言えないとは思うのですが、ジストニアの根源って、その人の楽器を演奏する時の身体の癖だと思うんですね。演奏家は、生涯何回も何回も同じような練習をします。その中に小さなでもあると、それが繰り返されていき、そのがたまに神経回路に悪さをしたりするのでは?と推定します。その癖は、実はみんな多かれ少なかれ持っている、けれどそれが、神経回路に悪さをするか、しないか、みたいなところなんじゃないかと思っています。(これはあくまでも、私が思っていることです。)

そして、誰もが持っているその癖ですが、その癖はジストニアにならなくとも、例えば腱鞘炎を引き起こすこともあるでしょうし、中には故障と言う形でなくても、演奏の上達をさまたげたり、音楽としての表現をさまたげることもあるでしょう。そう考えると、結局、身体の使い方と言うのは、どんな人にも大切である訳ですね。そういうことから、アレクサンダーテクニークでは、ジストニアの人でも、そうでなくても、同じところからレッスンを進めていきます。

ジストニアはフィジカル的な問題だけなのか?

あと、最後に一つ書いておきたいことは、ジストニアは、フィジカル的だけでなく、メンタル的なところが少々絡んでくるようです。(前述の社会的プレッシャーが少ない方が治りやすい、もこれに当てはまります)

ジストニアの症状が出る→メンタル的にしんどくなる→更にジストニアの症状が重くなる

と言う感じになります。この悪循環だけは避けたいですね。

アレクサンダーテクニークでできることは、まず「それ以上、悪くならないようにする!」です。これは、何人かの方とレッスンさせていただいて、わりとできたように思います。まずは、身体全体のメカニズムを変えていくことが先なのです。その結果、メンタル的にも安定しやすくなります。「悪循環を食い止める!」それが、アレクサンダーテクニークにできることだと思っています。

これからの演奏の教育現場が求められる事

結局ジストニアは、症状が痛みを伴わずに静かに進行するので、ものすごく厄介ですが、根本のところは、演奏家の他の症状や悩みと同じようなところなのでは?と思っています。

私自身もATを治療的な役割で学びましたが、F.Mアレクサンダーは、本当はATは予防的に使われることを望んで居たそうです。ATのレッスンでみなさんが最初に学ぶことは、本来は教育の中に取り入れられるべき内容なのですね。

これからの時代は、音楽の最初のレッスンから、音楽や技術の事と並行して、きちんと身体の事を教えることができる音楽の教育環境が整えば良いなと思っています。

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