私は、物心ついたときからずっと、舞台での「緊張」に悩まされてきました。 そのため、比較的早い段階から、舞台での緊張を含む「身体の使い方」について探求するようになりました。 最近になって、自分自身だけでなく、まわりの多くの人が「本番で身体がガタガタしてしまう」と困っている姿を見るようになり、このテーマについてあらためて考えるようになりました。 少し前に自分の中でひとつの気づきがあったので、それをここに書き留めておきたいと思います。

舞台での緊張には、いくつかの段階でアプローチすることで、予防や軽減ができるのではないかと感じています。具体的には、次の3つの視点での準備が鍵になります。
⸻ ① 普段の練習で、自分は何に意識を向けて演奏しているのか?
本番とは直接関係なさそうに思えますが、実はここがとても重要なポイントです。 よく「その曲がどれだけ体に染み込んでいるか」で本番の緊張が変わる、と言われます。そして 指導者の中には、「やっぱり練習量がものを言う」と言う人もいます。
けれど私自身は、「体に染み込んでいる」とは具体的にどういう状態なのか? そして「練習する」とは、ただ繰り返すことなのか?
その辺りがとても重要になってくるので、ただ「ひたすら練習!」とか「本気出して!」みたいな言葉では解決しないと思っています。
いくら時間をかけて練習しても、その中で自分の身体や意識にどう向き合っていたかによって、本番での緊張の現れ方は大きく変わるのではないでしょうか。
⸻ ② 本番が決まってから、本番当日までに、自分の身体とどう向き合うか?
人は、本番が近づくにつれて、無意識のうちに少しずつ緊張を高めていくものです。 それ自体は決して悪いことではなく、緊張によって本番で思いがけない力を発揮できることもあります。 また、「本番があるからこそ練習に身が入る」という側面もあるでしょう。
けれども、本番が近づく中で、焦りや身体のこわばりといった「溜まっていく緊張」が強くなりすぎると、当日にその緊張に飲み込まれてしまい、演奏が本来の力を発揮できなくなることがあります。 だからこそ大切なのは、「自分はいま、本番に向かってどんな状態にあるのか?」ということを、日々の中で意識的に見つめることだと思います。
ポイントは、「緊張すること=悪いこと」と決めつけないこと。 緊張していると気づいたときには、それを否定せずに、まず「そう感じているんだな」と認めることが第一歩です。 そして気づいた上で、「どうしたら自分の心と体がもう少し穏やかに本番に向かえるだろうか?」と身体を整えていくこと。 その積み重ねが、本番で自分の力を自然に引き出す助けになるのではないかと思います。
⸻ ③ 本番の「その瞬間」から「終わり」まで、自分をどう意識づけるか?
たとえ本番までの準備がうまくいっていたとしても、本番当日の「その瞬間」に身体が固まってしまうことはよくあります。たいていの場合、①と②の段階が整っていれば、本番もうまく乗り越えられるはずなのですが―やはり本番というのは、特別な場です。 「うまく演奏したい」「よく聴かせたい」といった想いが強くなりすぎてしまうことで、自分の内側に引き込まれてしまうことがあるのです。 この「意識の方向」が、本番中のパフォーマンスに大きく影響します。 ここで私が大切だと感じているのは、「本番中に自分を振り返らないこと」です。 人は不安になると、「今の音、うまく出たかな?」「響いているかな?」と、自分を確認したくなります。 ですが演奏は、常に前へ、前へと進んでいくもの。 振り返るための時間や余裕は本来、存在しません。 それでも、心が不安に傾いたときに「今、どうだった?」と立ち止まってしまうと、 そこから身体が少しずつ固まり始め、 次第にネガティブな思考がぐるぐると回り出します。 そのループに一度入ってしまうと、なかなか抜け出せなくなってしまうのです。
この3つの視点は、言葉にするとシンプルですが、実際にはとても奥が深く、体験してこそわかることがたくさんあります。私自身何十年もかけて積み重ねてきた気づきや経験が含まれており、全部を書き切ることはできませんが、その一端を今回ご紹介しました。
また、自分のことを自分で正確に知るのは、思っている以上に難しいものです。だからこそ、そっと伴走してくれる誰かの存在が、とても大きな助けになることもありますので、1人で悩み過ぎないことも大切ですね。
以下は、以前に書いた本番のあがりに記事です。ここに、自分の居方、練習のことなど、書いてありますので、良かったら読んでみて下さいね。